野 尻 湖 の 家
Nojiriko Villa
野尻湖の家
敷地は長野県北端部、大正期に外国人たちが軽井沢の喧騒から抜け出し、新天地を求めてつくった別荘村があることで知られる野尻湖畔に近い静かな山の中である。
施主は料理研究家。東京が本拠地であるが日本海にも近いこの土地で、都会では手に入らない豊かで新鮮な海と山の幸を楽しみ、田舎ならではの静かでゆったりとした暮らしを実践したいという。この家はそのための住まい、と同時に、暮らし=仕事の人なので、昼間は撮影スタッフがやって来る仕事場、料理スタジオでもある。
初めてここを訪れた時、そこは音の消えた一面の銀世界だった。敷地は道路から西に向かって下がる傾斜地で、正面に黒姫山と妙高山、手前には広がる森、それらの向こうに沈む夕陽、と自然美を一望にすることが出来る場所である。周囲は落葉樹の明るい森で、四季のうつろいを楽しめる。
施主からの希望条件は、暖炉があること、四季を通じて暮らせる家であること、必要最小限な家とし、そこにいる人、そこにある物が美しく見えるようにしてほしい、というシンプルなものだった。
豪雪地帯(降雪量約2.0m)、急傾斜地(斜度約30度、平坦部なし)に加え、地盤調査の結果-1.5mまでN値3以下の軟弱地盤であったので、基礎にコストがかかることは必須であった。限られた予算内で、堅固で美しいカタチをつくるという問題を解決する鍵は、自然条件に逆らわないこと、と考えた。
等高線の緩やかな流れに沿って、建物の線を引く。内部の機能により、その線は少しづつずらされていく・・・水の流れの中に、小さなきっかけによって生じた波紋のように。平面上の複数のずれた曲線が、屋根勾配によって立面に反映される。架構を単純化させ露すことにより、流れはさらに視覚化される。
谷側のみを全面開口にし、他の面は閉じる。空間とそれにつらなる外界の広がりが、幾何学によらない緩やかな流れのために、無限性を増し加えられ感じられ、小さな家の中にも広大な世界が生まれた。
この家の場合、ただ一人の施主のための住宅である。施主という人間から受けるインスピレーションをいかにあらわすか、が重要な課題であった。それをつくる過程で、人間をとりまく四次元における見えない流れを読むこと、それをカタチや設計作業の中に含ませることへの関心が新たに浮上してきている。(「新建築 住宅特集」2004年2月/新建築社)
所在地 長野県信濃町 建築設計 八木建築研究所
主要用途 専用住宅 構造設計 草間構造設計室
構造規模 木造 平屋 施工 やま秀 田中建設
敷地面積 423.59m² 竣工 2003年7月
延床面積 86.14m²